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画像ファイル 自転車騒動
ドイツ駐在員始末記
1いざドイツへ
2デュッセルドルフ
3駐在員の面々
4アパートを探せ
5女房と子供が来た
6ドイツ人の奥さん
7御入園
8ドイツ人秘書
9アパート事情
10虱騒動
11アウトバーンと車
12ドイツ語
13バカンス
14自転車騒動
15買い物
16食事と食材
17鍵が無い!
18娯楽と本

トラベルはトラブル
1不思議の国インド
2ローマ タクシー...
3モデナで道を...
4デリゲート入門
5...イギリス人
6片桐機長何を...
7ブルーカラー
8横メシ1
9横メシ2


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自転車を買った
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女房と子供が来て直ぐに近くの自転車屋さんで自転車を買った。
フランス製の自転車でファミリーユースでは有ったが、結構軽快に走った。
この自転車の後ろに子供用の座席をつけて、女房は来る日も、来る日も子供を 幼稚園に送り迎えしていた。
車を持たない我が女房にとって自転車は最も重要な交通手段であった。
私たちのアパートは町の中心街からだいぶ離れていたので、幼稚園までは結構遠かったのであるが、 ドイツの道は良く整備されており又自転車の走る歩道は十分広かったので危険は無かった。
ヨーロッパの自転車は日本の自転車と少し違っている、後ろのブレーキが無いのである。
日本の自転車はペダルをこいで自転車が動いている時にペダルを止めると、ラチェットが 効いて、ペダルが空回りする。
ヨーロッパの自転車は、この空回りの機構が無い、自転車が動いている時にはペダルを 回していなければならないのだ。
ペダルを止めるとタイヤにブレーキがかかる仕組みになっている、要するに足ブレーキである。
自転車が動いている時にペダルを踏ん張れば、踏ん張った力に応じて後ろのタイヤに ブレーキがかかることになる。
どちらが便利かと言うと、使い慣れるとヨーロッパ方式の方が、強力なブレーキがかかるし 簡単である。
この機構が珍しかった事と女房子供が散々お世話になって、愛着があったので、私たちは この自転車を帰国時に日本に持ち帰ったのである。

日本で
ある時私はこの自転車に乗り、三鷹駅の近くのラーメン屋の前に自転車を置き、 ラーメンを食べた、そしてラーメンの代金を払い、駐輪してあった私の自転車に乗ろうとした時、 小学校4〜5年生の男の子と、同じく小学校2〜3年生の子供が傍によって来た。
そして「おじさん、この自転車どうしたの?」と私に尋ねたのである。
この子達はラーメン屋から私が出てくるのを待っていたのである。
私はしばらく何のことかわからずその二人の小学生の顔をかわるがわる見ていた。
「その自転車は、僕たちのもので、ドイツから持ってきて乗っていたが、最近盗まれて しまったの。」と年長の子供が続けた。
「え!」と私は驚いて自分の自転車を改めて見直した。
しばらく沈黙が続いたが、大体の状況が飲み込めてきた。
「君たちドイツに居たの?」と私が訪ねた。
「はい」と答えが返ってきた。
「ドイツのどこに居たの?」と私が訪ねた。
「デュッセルドルフ」と子供が答えた。
まずいことになったと私は思った、この子達はこの自転車が間違いなく自分の物だと 確信している。
ここで私が私もドイツにいてこの自転車はドイツから持ち帰ったと言っても、 信用してもらえないことは目に見えていた。
子供たちも、自分の自転車を見つけたのはいいが、この先どうしていいのか解からず ただ私の顔を見て居るといったふうであった。
子達が納得する形で、この自転車が私の物で有ると言う説明をするには いったいどうしたら良いのだろと私は思案に暮れた。
そうだ突然私は思い出した、「実はおじさんも少し前までは、デュッセルドルフに 居たんだよ、この自転車はおじさんがドイツから持ち帰った物なんだよ。」私はそう言って、 ズボンのポケットから財布を出し、その中からデュッセルドルフの日本人クラブの会員証を出して、子供に見せた。
こんな所デュッセルドルフの日本人クラブの会員証が役に立つとは、と私は思った。
子供たちはその会員証をチラッと見て、「でももういいや、新しい自転車を買ってもらったから」 と半分自分たちに言い聞かせる様に、二人でその場から立ち去って行った。
子供たちにとっても、その自転車は思い出が一杯詰まったもので有り、たとえ新しい自転車を 買ってもらってもそれに代えがたい物だったのであろう、その気持ちは私にも良くわかった。
そして、何か気まずいものが私の中に残った。

その晩...
その晩私は今日有ったこの出来事を、女房に話したのである。
女房はしばらく考えていたが、「もしかしてIさんの子供さんたちかもしれない、 日本に帰って来てると連絡が有ったから。」と言って電話をかけ始めた。
「え!Tさんの旦那さんだったの、ごめんなさい、よく子供たちに言っておきますから。」 Iさんの奥さんはそう言ったそうである。
Iさんはドイツで私たちの近くに住んでいて、自転車も同じ自転車店から購入した 全く同じものであった。
こんな偶然はめったにあることではなく、子供たちが間違えるのは当然のことであった。
私も少しほっとして、世の中は狭いとしきりに感心したものだ。

その後この自転車は長い間私が乗り、タイヤが磨耗してしまった為、 自転車店に持ち込んだが、あいにく日本の自転車とは規格が違う為、合うサイズのタイヤが無く、 やむおえず思い出と共に捨ててしまった。

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