ドイツ人の奥さん | |
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お隣の住人
私のアパートの部屋のすぐ前にはアウフバッサーさんというドイツ人の家族が住んでいた。
"アウフ"とはドイツ語で"上"と言う意味でそして"バッサー"は水である、 日本名に直すと"上水"さんだ。 アウフバッサーさんはご主人と奥さん、それに女の子と男の子の4人家族で、女の子は、 12−13歳位、男の子は10歳位であった。 アウフバッサーさんは、このアパートの管理人をしていた。 ご主人は勤めていて主に奥さんが管理人の仕事をしていたようでのである。 アウフバッサーさんの奥さんはちょっと太ってはいたが、40歳位の金髪碧眼の典型的なドイツ人でであった。 この奥さんはかなり世話好きで私とTさんがアパートの部屋の準備などをしていると 、時々顔を出していろいろ細かいことを教えてくれた。 セントマーチン(セント・マルチン)祭
私の女房と子供がドイツに来て2日目の夕方である、
ドアのチャイムが鳴り出てみるとアウフバッサーさんの奥さんが立っていた。 アウフバッサーさんはにこにこしながらたどたどしい英語でこう言ったのである。 「今日は子供のお祭りである、子供たちは歌を歌いながら家々を回って飴をもらうことになっている、 あなたの娘も他の子供と一緒に家々を回らなければならない。」と。 私は女房と娘に説明しながらどうしようと相談した。 こういう場合女房と娘の返事は大抵一つである、「行ってみたい」と。 やがて娘はアウフバッサーさんに手を引かれ、その後を女房が、 とことこついて出かけたのである、もちろん私は家にいた。 一時間位経ったのであろうか、私の心配をよそに、娘はポケット一杯にキャンディーを詰め込んで、 にこにこしながら帰って来た。 女房の話によると、娘は子供たちと一緒に近所の家々を回り戸口で歌を歌って、 キャンディーをもらったということである もちろんん私の娘はドイツの歌など知らないので、中には歌を歌わないとキャンディをあげないという 家もあったようだが、そんな時はアウフバッサーさんが娘の手を引いて、 代わりに歌を歌ってくれたとのことであった。 ドイツ生活はまだ始まったばかりで、どこにも知り合いなど居らず、 右を向いても左を向いても分からないことだらけであった。 しかも生活の上でも、仕事の上でも心配事は山のようにあって、私を押しつぶそうとしていた。 しかしこの日、私はなんとなくこれからこの国でやっていけそうな気がしたのである。 11月11日、その日ドイツはセント・マルチン祭であった。
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