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画像ファイル いざドイツへ
ドイツ駐在員始末記
1いざドイツへ
2デュッセルドルフ
3駐在員の面々
4アパートを探せ
5女房と子供が来た
6ドイツ人の奥さん
7御入園
8ドイツ人秘書
9アパート事情
10虱騒動
11アウトバーンと車
12ドイツ語
13バカンス
14自転車騒動
15買い物
16食事と食材
17鍵が無い!
18娯楽と本

トラベルはトラブル
1不思議の国インド
2ローマ タクシー...
3モデナで道を...
4デリゲート入門
5...イギリス人
6片桐機長何を...
7ブルーカラー
8横メシ1
9横メシ2


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すまじきものは宮仕え
画像ファイ "あー君、今度ドイツの駐在員に決まったから。" ソーム部長Sさんが私の席まで来てそう言ったのである。
私は某メーカーの技術者で、東京に有る開発センターの設計課に勤務していた。
"ドイツですか?"私はそう言うのが精一杯であった。
と言うのもつい先月まで、"君はアメリカの駐在員に内定しているから。"と言われていたからである。
それどころか一年前は "3年位東京に行ってくれ" といわれて田舎から出て来て、 やっと東京暮らしに慣れたところである。
本当のところ私はアメリカに行くのも少しためらっていた、独身時代であれば一も二もなくOKのところであるが、 実は3歳の娘がいたからである。
外国に行くとなれば女房子供を連れて行く必要が有り、それ相当の覚悟が必要であった。
"労働ビザの取得があるから、出発は2ヶ月くらい先になります。" ソーム部長は続けている、言葉は丁寧だがやっていることは極めて粗っぽい、
私がいやといわないうちに自分の仕事を済ませてしまおうと思っているのである。

ドイツ大使館 無犯罪証明書
"とりあえず早めに広尾のドイツ大使館に行ってどんな手続きが必要か聞いてきて下さい。 ドイツの労働ビザを取るのはなかなか難しいから。"そこまで言うとS部長は私の返事を待たずに行ってしまった。
普通はこんな手続きは総務がやるのであるが。
私は迷っていた、行くべきであろうか、会社の命令にそむくことはその会社を辞めることを意味していた。
決心がつかないまま、とりあえず私は広尾のドイツ大使館に出かけた。
"まずは無犯罪証明書がいりますね。"大使館の初老の紳士はドイツ滞在に必要な手続きを書いた紙を渡しながら説明してくれた。
ドイツタ大使館に行くとドイツ人が応対に出てくると思っていた私は少々拍子抜けしながら、 "無犯罪証明書?"聞いたことがないななどと、ぶつぶつ独り言を言いながら大使館を出た。
どうせ会社に帰っても教えてくれる人はいない、なんせ私は我が社で最初のドイツ駐在員である。
技術的な事に関しては教えてくれる先輩や同僚は沢山いるのであるが、アメリカの事ならいざ知らず、さすがにドイツとなると 知っている人は居ないであろう。
所詮どこに居ても、最終的に頼りになるのは自分だけである。
どこに行って聞いたらいいか判らないので先ず私は、ドイツ大使館の帰りに渋谷の駅前の交番に行った。
無犯罪証明書というからには警察に行けば判ると思ったからである。
"すません、無犯罪証明書はどこに行ったらもらえるのでしょうか?"私の問いに対して。
"犯罪証明書?いったいどんな犯罪を犯したのだ?"と若い警官は答えた、要するに知らないのである。
私もあまり期待はしていなかったが何かきっかけでもと思い聞いてみたのだ。
その時奥の方に居た年配の警官が、"前にも聞かれたことがあるなー、 確か本庁の方で発行していると思うがいったい何に使うんだ?"と聞く。
私は"ドイツへの労働ビザを取るために必要だとドイツ大使館で言われたのです。"と答えた。
"ふーん ドイツは厳しいと聞くからな。"と警官は答える、本当に判っているのだろうか。
とにかく私はその足で警察庁に行ったのである。
当時ドイツは経済発展に伴い、トルコから大量の労働者を受け入れており、 これと比例して外国人による犯罪が増えていたのだ。

家で女房に...
その日家に帰って妻に"今度ドイツに行くことになったから"と言った。
"え!ドイツにいけるの?"妻はいたって脳天気である。
後にこの脳天気な性格に助けられることになるのだが。
それから色々あった、なかなか労働ビザが下りなかったこと、引越しに手間取ったこと、 などなど、しかしついに私はドイツに向けて出発したのである。
今から25年ほど前のまだドイツが東西に分かれていた頃のことである。

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