ドイツアパート事情 | |
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アパートに住む為のルール
下の階の人に迷惑がかかるからだ。 当然夜中に部屋の中を音を立てて歩いたり、大声でしゃべったりすることは厳禁である。 特に子供連れの夫婦がアパートを探すときには次の鉄則がある。 "一人暮らしのおばあさんの部屋の上の階には決して部屋を借りてはいけない"と。 当然私もこのことは色々な人から聞いて知っており、今のアパートを借りるときの重要な選択の条件にしていたのである。 調度良い具合に、私達家族の部屋の下は広告代理店の事務所であった。 事務所なら昼間多少音を立てても苦情は来ないし、夜は誰も居ないのだ。 従って夜くなってのトイレも流し放題、音を立てても誰も文句を言う人は居ないのである。 更に隣はおばあさんの一人暮らしであるが、このおばーさん不動産屋のお母さんでしかも少し耳が遠いのである。 つまり子連れの日本人の夫婦には絶好の環境であった。 おばーさんが階下に引っ越してきた
ところがである、我々が引っ越して3ヶ月も経たないうちに下の階の会社が引っ越して行ってしまったのである。
しかもその代わりにおばあさんが引っ越してきた。 更に悪いことにこのおばあさん少し痩せ型でかなり神経質そうでおまけに見るからに口うるさそうなのだ。 "話が違う、詐欺だ! こんな事は困る。"と言っても今は遅い、もっともそんなことを言う権利は当方には無い。 今までの最良の条件が一夜にして最悪の条件になってしまったのである。 今から別の場所に引っ越したくても敷金は払ってしまっているし、どうしようも無いのである。 話は変わるがドイツ人は極端に家の外観をきれいにする。 アパートのベランダに洗濯物を干すなどと言うことは、ドイツでは考えられない、そんなことをしようものなら、 ものの30分も経たないうちに誰かが飛んできていったい何をしているのだと注意される。 洗濯物は全て乾燥機で乾かし、毛布のような大きいものは地下の倉庫で干すのだ。 従って洗濯物を日光にあてるなどと言う習慣はこの国には全く無いのである。 もっと驚いたことがある、日本では家を探すとき南向きの"日当たりの良い家、日当たりの良い部屋"といって家や部屋を探すが、 この国は北向きの日の当たらない家や日の当たらない部屋がいい条件なのである。 部屋に日が当たろうとするとドイツ人は窓のシャッターを閉めてしまうのである。 その理由は、"日が当たると家具が傷むから"というのである。 確かにドイツ人は財産として子供たちが引き継ぐことが出来る様な立派な家具を買うのである。 幸か不幸か、我がアパートは南向きの日当たりの良い、ドイツでは立地条件の悪いアパートであった。 我が家の家具など多少傷もうがどうせ会社から借りたものだし、しかも殆どが安物である。 ベランダのゼラニュームが枯れた
話は前に戻るがこのアパートを契約する時に契約書の中に、"ベランダの花を枯らさないこと"と言う条件が有った。
アパートの各階のベランダの手すりには、それぞれ幾つかのプランターが掛かっており、ゼラニュームの花が美しく咲いていたのだ。 花の管理は女房の役目である、始めのうちは水などやって時々栄養剤などのアンプルを刺してやっていたのである。 ところが問題は冬である、ドイツの冬は寒い、外に出して置くと当然のことながらゼラニューム等は全部枯れてしまう。 そこで枯れるのを防ぐ為に、冬は地下の各家の倉庫にゼラニュームのプランターを入れておくのである。 地下の倉庫は、冬の間もある程度暖房が効いていてゼラニュームが枯れることは無いと言うことであった。 我々も当然この大事なゼラニュームのプランターを地下の倉庫に移したのである。 ところがである、春になって恐る恐る倉庫の中のゼラニュームを見るとどうしたことか、 ほかの部屋の人たちのゼラニュームが青々としていかにも健康そうに見えるのに比べ、 我が家の大切なゼラニュームはまるでもやしのお化けのように、細くてひょろひょろとしているではないか。 これではとても花が咲きそうにない、我々はあせった、我が家のベランダだけ花が咲かなければ何を言われるか分からないからである。 しかも我が家は玄関の横で一番目立つ場所にある。 いったいどうしたものかと我々夫婦は途方にくれたものである。 ところがある日女房が言うに、隣の不動産屋のお母さんのヤンセンさんのベランダのゼラニュームは、 全く冬の間地下に入れず、すっかり枯れていると言うのである。 ヤンセンさんの部屋は、北向でベランダは家の裏の方に付いており、表からは見えないので、我々も気が付かなかったのである。 ヤンセンさんのおばーさんもうろくしたのかなーと思っていると、ある日花屋さんが来てプランターの花を全部新しい花に変えていったのである。 そんな手も有るのかと、我々も同じ花屋さんに頼んでプランターのゼラニュームを全て新しいものと入れ替えてもらったのである。 おかげで我が家のゼラニュームはどの家の花より立派で、我々は大いに面目を保ったのである。 ただし花屋に支払った一万円は痛かったけれど。 下の階のおばあさんから苦情が来た
我が家に昼間、娘の友達が沢山遊びに来て飛んだりはねたりしたのだ。 年寄りは昼食後昼寝をするのである、その間午後一時から3時頃までは静かにしていなくてはいけないことになっている。 こうしたことを繰り返していると最後にはアパートを追い出される羽目になる、今のうちに何とかしなくてはいけない。 そこで女房が考えたのはプレゼント作戦である、まずクッキーか何かを焼いて持っていったのである。 そしてその次は日本からお土産用に持っていった日本の箸を。 ドイツ人はプレゼントに弱い、ましてやあげたのは成田空港で買った、珍しい日本の箸である。 外国に行くときは必ず何かお土産を持って行った方が良い、ヨーロッパ人はともかくとして、 中東から来る人は必ず何かお土産を持ってる。 ただし何を持っていくか頭を悩ます必要は無い、成田空港に行けば、外国人が喜びそうなお土産が 山のように置いて有る。 そのような訳で、この口うるさいおばあさんも、日本人のプレゼント作戦によって懐柔されたのである。 もちろん我々も以後は音を立てないように万全の注意をしたことは言うまでも無い。 しかしあの枯れたゼラニュームはいったい何がいけなかったのだろうか? |