画像ファイル
画像ファイル 娯楽と本
ドイツ駐在員始末記
1いざドイツへ
2デュッセルドルフ
3駐在員の面々
4アパートを探せ
5女房と子供が来た
6ドイツ人の奥さん
7御入園
8ドイツ人秘書
9アパート事情
10虱騒動
11アウトバーンと車
12ドイツ語
13バカンス
14自転車騒動
15買い物
16食事と食材
17鍵が無い!
18娯楽と本

トラベルはトラブル
1不思議の国インド
2ローマ タクシー...
3モデナで道を...
4デリゲート入門
5...イギリス人
6片桐機長何を...
7ブルーカラー
8横メシ1
9横メシ2


感想、意見はこちらに
画像ファイル


唯一の娯楽
画像ファイ ドイツ駐在員には娯楽と言うものが殆ど無かった。
我々にとっての最大の娯楽のテレビも、当時は日本語の放送などと言うものは もちろん無かったし、ドイツ語の放送もニュースや討論会と言った教育的なものばかりで たまにサッカーをやっている程度であり、一月のうちでテレビを見るのは30分程度であった。
もちろんインターネットなどと言うものは影も形も無かったのである。
我が家のテレビはベルギーの駐在だったTさんから引き継いだ物で、時々画面が小さくなる、 それはひどい代物であったが、殆どテレビを見ない我々にとってはそれで十分であった。
当時ビデオデッキは既に販売されていたが、たとえ日本から録音済みのテープが送られてきたとしても ヨーロッパと日本は規格が違う為に見ることは出来なかった。
女房は「マクラメ」と言う紐を編んで飾りにするような物を誰かから教わって熱心に編んだり、 ドイツ風の人形などをこれもどこかの日本人の奥さんに習って作っていた。
私はと言えばゴルフもテニスもやらないし、今のように水泳もしなかったので、暇なときはもっぱら 読書をした。
日本からも多少の本は持ってきたが、そんなものは1ヶ月位で全て読んでしまった。
デュッセルドルフの日本人街には日本の本屋があり、1週間遅れの週刊誌や、文庫本などを 売っていた。
本の価格は正確には覚えていないが、日本の2倍程度であった。
はじめの頃は私もちょくちょく文庫本などを買っていたが、特に速読みの私は、文庫本を 2冊ぐらい買っていっても、1日で読んでしまい、とても経済的に耐えられるものではなかった。
ところが救いは有るもので、デュッセルドルフには日本人クラブと言うものがあり、いくらかの年会費を 収めるとその図書館から本を借りることが出来た。
デュッセルドルフの日本人クラブの図書館はちょっと古い本も有ったが、結構蔵書が豊富で、 週末はここに行き、図書館から4〜5冊の本を借りることが殆ど習慣になっていた。
いくら蔵書が豊富と言っても、毎週毎週4〜5冊くらいの本を借りると、1年くらいで面白そうな 所は全て読んでしまう、あとは剣豪ものノンフィクションと手当たり次第に読んだ。
しかしながらやはり、最新の本が読みたいと言う欲求は抑えきれず、日本の本屋に行く事になった。 私の本を買う条件は、先ず厚くなくてはならない、次に最新の日本の情報が書かれていなければならない、 最後に安くなくてはならない、この3点であった。

「文藝春秋」
ここにぴったりした条件の本が有った、「文藝春秋」である。
「文藝春秋」の出る週の週末は、必ず本屋に行きこの本を買って帰った。
さてわたし流の読み方であるが、家に帰っても先ず本は開かないで、表紙に書いて有る特集の文字などを読む、 「芥川賞発表」等と書いてあった。
次にまだ本は開かないで、裏表紙を見る、そしてそこに書いてある広告を細かい字まで含め全て読む。
この儀式が終わるとようやく本を開くことになるが、本文は開かずに、本の最初に有る目次を読み始める。
「文藝春秋」の目次は見開きになっていて、結構読み応えがあるが、一つ一つの目次を丹念に、 想像を掻き立てながら読む。
目次の次は写真つきの記事が出てくる、人の紹介や場所の紹介記事、広告が続くのである。
この写真の部分は、この本の一番美味しい部分であり、ここは一番最後の楽しみとなる。
写真の部分を飛ばして次は小さなコラムのようなものが15〜20位書かれている、ここを ゆっくりと飛ばし読みしないように時間をかけて読むのである。
そして一日目はこの位で止めにして、後は日本人クラブから借りてきた本を読む。
この後であるがドイツに居るときはそれ以上はこの本を読むことは無い、我慢である。 そしていよいよ出張に出かけるときに持っていくのである。
私の出張は殆どが飛行機で有った為に、空港での待ち時間や、飛行機に乗っている時間が有り、 そんな時この本を出して読んだ。
先ほど書いたが、写真つきのページは大切である、出張で疲れてヘロヘロになった時に、 元気付けとして、今まで我慢していた写真付きの記事を読むのである。
私はとことんこの本を読んだ、投稿記事はもちろんのこと、編集便りや広告の文章も残らず読んだ。
文藝春秋の広告は、質が高く写真も良いし、文章の格調も高かった。
多分この本をこんなにまで微に入り細に渡って読んだのは編集者と私ぐらいの者ではなかろうか。

ミラノのホテルで
ある時イタリアのミラノでホテルに泊まり、前の日にこの本を読んでベットの横のテーブルに置き、 外出して帰ったら本が片付けられていた、私は驚きあわててフロントに本を返してくれと抗議に行った。
通常ホテルでは明らかにゴミとわかっていても、ゴミ箱に捨てない限り客のものを捨てることは無いのだ。
フロントに居たイタリア人はこのホテルに私がチェックインした時に対応に出たイタリア人であった。
彼は私の「部屋に風呂は付いているか?」との問いに「Yes」と答えた。
そこで安心して部屋に行くと、其の部屋にはシャワーしか付いておらず、取って返した私が「ウイズバスタブ、ウイズバスタブ」(浴槽付き) と言って強引に風呂付の部屋に変えてもらったイタリア人フロントであった。
彼が調べた結果私の本は既に捨ててしまったとのことであった。
私のあまりの落胆を見て、フロントのイタリア人は日本人はなぜこんなにも風呂と本が好きなんだと、 首を傾げる事しきりであった。

画像ファイル