虱騒動 | |
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子供の権利
たとえその子の親であろうと、其の権利を侵害することは出来ないので有る。 よくこの様な話を聞いた。 町の真ん中でぐずって泣いている子供を母親が平手で叩いたところ、 それを見ていたドイツ人二人が相談して、其の母親から子供を取り上げ、児童虐待を理由に 児童保護局に預けてしまったと言う話である。 動物虐待に関してもこの国は厳しい、たとえ自分が飼っている犬であっても、棒で叩いたりすると その場で逮捕される可能性が有る。 この様な場合ドイツ人は必ず2人で行動する、後で何かあった時にお互いに承認になり合う 為である。 しかしながらドイツにおいては子供達はかなり社会的に厳しく管理されている。 たとえば一般的なレストランには犬は入れるが、子供は入れないのである、理由は"騒ぐから"である。 従ってこの国ではレストランで子供が騒いでうるさいなどと言うことは皆無である。 アパートを借りるときに驚いたのであるが、子供部屋には外に鍵がついていて、鍵をかけると中から開かないようになっている。 これは子供が寝てから大人たちが夜どこかに出かける時、外から鍵をかけて、子供が部屋から出ないようにする為である。 日本では子供だからと言って笑って許されることがドイツでは許されないのである。 いつかドイツのデパートに買い物に行った折に、我が娘が面白がってエスカレーターの停止スイッチを押したことが有った。 この時は周りのドイツ人から一斉に冷たい視線を受けて、我々夫婦は逃げ出したい思いであった。 たとえ子供といえど他人の権利を侵害することはタブーなのである。 ディユッセルドルフの町まで出かけて行っても子供の遊ぶ場所など殆ど無い。 考え方の違いは有るにしろ、我々東洋人から見ればドイツは子供に冷たい国のように見えるのである。 そして子供達にとってもドイツは住みにくい国なのであろうか。 娘の頭に虱がたかった
この事件が有ったとき私は丁度1週間程度の出張でドイツには居なかったのだ。
従ってこれは全て女房から聞いた話である。 ある日幼稚園に娘を迎えに行くと、3組の日本人の親と子供が園長先生の部屋に呼ばれ、 次のように言われたというのである。 "この子達の頭には虱がついておりこの虱がなくなるまで幼稚園には来てはいけない"と。 日本人の奥さん達は驚いた、おまえ達の子供は不潔だから幼稚園に来てはいけないと言われたようなものである。 奥さん達は大いに面目をつぶし、そしてあせったのである。 我が女房を含め3人の奥さん達がドイツ語を解するとは思えないので、 園長先生がどのように話したのかは定かではないが、 多分手振り身振りで話したので有ろう。 いわれて娘の頭を良く見ると白い小さな卵のようなものがついているではないか。 そういえば2−3日前から娘が頭が痒いと言ってぼりぼりと掻いていたと言うのである。
大体虱などという小動物を我々は見たことが無い、日本では既に絶滅しているのではないだろうか。 さて虱をどのように退治したら良いのか分からないので、女房達は子供を小児科の病院に連れて行ったのである。 小児科の病院では心得たもので、虱退治用の薬と特別な櫛を処方してくれたのである。 ドイツはこの時代から完全に医薬分業であった。 女房は家に帰り先ず娘の布団を全て消毒し、そして薬局から買ってきた虱退治用の薬を娘の頭につけたのである。 そしてこれからが大変だったと女房は言う。 虱の卵は髪の毛にしっかりくっついておりなかなか取れないのだ、これも薬局で買ってきた目の詰まった櫛で、 "痛い"と言って泣きべそをかく娘を押さえつけて、半ば強引に髪の毛をくしけずったと言うのである。 これらの功有ってか次の日、娘達は無事に園長先生のチェックをパスして幼稚園に復帰したのである。 "大体虱はドイツ人の子供からうつったのよ" 女房は続ける "ドイツ人の子供の髪の毛は金髪や赤毛で、 たとえ虱の卵があっても簡単には見つからない、それに引き換え日本人の子供の髪は真っ黒で少しでも 虱の卵があればすぐに判ってしまう。" "大体ドイツ人は毎日風呂のも入らないし不潔なのよ"と女房は言う。 私は半ば笑いながら話を聞いていたが、女房が話し終えたところで横で遊んでいた娘に、 "しらみちゃん"と声をかけた。 女房の怒ること、怒ること。 |